鵜の目鷹の目ココロの目 第50回

暦年と年度 志村史夫

 

 暦年の2016年がほどなく終わる。

 この1年が素晴らしかった人も、そうでなかった人もいるだろう。

 私は昔から日本の大晦日~元日の独特の雰囲気が好きである。

 元旦の「初詣」も好きである。

 いま、わざわざ「日本の」と書いたのには理由がある。

 昔、アメリカで暮らしていた頃、毎年「アメリカの」大晦日~元日の雰囲気にシラけていたからである。アメリカ人にとって、日本人が感じる「大晦日~元日の雰囲気」にほぼ匹敵するのは「クリスマスイブ~クリスマスの雰囲気」である。私は、アメリカの友人と「クリスマスイブ~クリスマスの雰囲気」を味わってはいたが、私がクリスチャンでないことやクリスマスケーキを買って無邪気にクリスマスを楽しめる人間でないことも関係するのか、それは日本で楽しんでいた「大晦日~元日の雰囲気」とはとても比べられるものではなかった。そんなわけで、年末近くになって、無性に「日本の大晦日~元日」が恋しくなって、急に思い立ったように日本に帰ってきたことが何度かあった。

 私は、なんともいえない「日本の大晦日~元日」の独特の雰囲気自体が好きなのであるが、元旦に新しい年を迎え、気分一新できることも貴重である。

 本来正月に書くべきと思われる「年賀状」が、正月に届けられるために、年末どころか12月の中旬くらいまでに書かれて投函されるのが一般的であるが、私は、毎年、気分一新の元旦に、文字通りの「年賀状」を直筆で書くことにしている。元旦に、軽く日本酒を飲んでから、和室で墨をすり、文字を書くのは爽快である。そのため、私からの年賀状は元日には届かないので、受け取る人をシラけさせてしまうことになるだろうが、「旧年」に年賀状を書く気にはなれないので、ご勘弁願っている。

 1月1日に新年を迎える暦年とは別に「年度」というものがある。

 日本の「年度」の区切りは4月1日から3月31日までである。

 この「年度」を直接的に表わす英語はなく、例えば「会計年度」は“fiscal year”、「学校年度」は“academic year”と呼ばれる。ちなみに、「暦年」は“calendar year”である。

 これらの「年度」の区切りは国によって異なる。例えば、アメリカの会計年度は10月に始まるし、学校年度は9月に始まる。

 一般的に「社会」は年度を基準にして動くから、どの国でも「社会的生活」の上では、暦年よりも年度の方が重要である。

 いずれにせよ、暦年と年度の区切りが異なるので、長い人生をダラダラ送らないためにも、「1年」に2度、気分一新の機会があるのはよいことだ。

日本の4月は「新年度」が始まる「気分一新の時」で何かを新しく始めるのに適した時である。日本の「4月」には桜を伴なうことがなんとも素晴らしい。特に、新入生、新入社員を迎える入学式や入社式には桜がよく似合う。

私はアメリカの大学にいた頃、大学の「新学年開始」が9月であることにどうしても違和感を覚えたのであるが、それは単に「4月」と「9月」の違いだけではなく、やはり、長年の日本人としての習慣から、「新年度開始」に桜が伴なっていなかったためであろうと思う。毎年、春になり、南から北へ順次「桜前線」に乗って移動する日本列島各地の満開の桜を見るたびに、私はつくづく「やはり、桜は日本の花だなあ」と思う。

さて、私事で恐縮であるが、私は来年3月末に「定年退職」し、完全に「自由人」になる。同時に、「年度」とはほぼ無関係な人生が始まることになる。幼稚園に入ってからいままで60年以上「年度」を基準にした「社会的生活」を送ってきた私にとっては未知の人生である。それが、楽しいのか、寂しいのかわからないが、少なくとも、「気分一新」の機会が2回から1回に減ってしまうので、その分、気持ちを引き締めなければならないような気がする。

この「鵜の目鷹の目ココロの目」も今回で50回になった。回数もキリがいいし、ちょうど「暦年」のほぼ最後にもなるので、これを「最終回」としたい。

気分一新!