鵜の目鷹の目ココロの目 第35回

 叙勲・褒章ビジネス 志村史夫

 

 毎年、春と秋にはさまざまな恒例行事があるが、国家的大規模なものはなんといっても春秋の「叙勲」と「褒章」だろう。

 いずれも天皇から授けられる栄典で、「叙勲」は「国家または公共に対して功労のある者を勲等に叙して勲章を授けること」、「褒章」は「社会の各分野における優れた行ないや業績のある者に褒章の記章を授与すること」と定義されている。

 この春、4023人の叙勲受章者、704人の褒章受章者が発表された。

国家・公共に対する功労、優れた行ない、業績には無縁の私は、まさに「他人事」として、毎春秋の受章者リストを眺め、師・先輩・同輩(最近は後輩も)の名前を見つけては懐かしがったり、「なぜAさんが大綬章で、Bさんが小綬章なのだ」と義憤を感じたり、「あの人が紫綬褒章をもらったか、ちょっと遅すぎたくらいだな」と思ったりしている。いつもは、こんなことを感じつつ私的恒例行事を終えるのであるが、今年の春はちょっと違っていた。

 私の親しい友人の御母堂が長年の保護司活動が評価され、「国や地方公共団体から依頼されて行なわれる公共の事務(保護司、民生・児童委員、調停委員等の事務に尽力した方)」に授与される「藍綬褒章」を受章されたのであるが、その内定通知から授与式までの顛末を逐次聞いていたからである。その結果、私の興味は「叙勲・褒章ビジネス」というものに拡がった。

 まず、授与式出席の服装は「正装」であり、授与式には原則として配偶者同伴が義務付けられているので、受章者、配偶者は「正装」を準備しなければならない。一般的に、勲章・褒章授与式に出席するような「正装」を常備している人は少ないだろうから、多くの関係者は「正装ビジネス」の世話になるだろう。また、基本的に東京に出向くことになるから、東京のホテル、しかも、「着付け」をしてもらえる「美容室」、記念撮影写真館完備の高級ホテルに泊まることになるだろう。じっさい、内定通知が出された頃から、授与式前後の日の都内の高級ホテルはすべて満室とのこと。加えて、往復の旅費。さらに、受章後には地元での祝賀会が待っている。その案内状の印刷、通知の費用、当日の祝賀会会場費、記念品代などなど。ほとんどの人は、このような一連の行事に慣れていないだろうから「叙勲・褒章パック」なるものも用意されているらしい。普通の人は「記念品」として何を用意するかなどわからない。小生、試みに「叙勲・褒章」をインターネットで調べてみたら「叙勲・褒章・叙位叙勲受章額と記念品専門店」がきちんと親切に待っている。

 とにかく「叙勲・褒章ビジネス」は広範囲で、ここに動く金額は私にはとても想像できないほど莫大になるに違いない。

 なんといっても、多分、一生に一度の「お祝い事」であるから、関係者は、ちょっとの無理をしても喜んで椀飯振舞(おうばんぶるまい)をするだろう。

 このような椀飯振舞をしてくれそうな人が、毎年、確実に、1万人近く生まれるのである。祝賀会に出席する人の数を含めれば、なんらかの形で「叙勲・褒章ビジネス」に自らすすんで貢献する人は100万人を超えるのではないか。

 

 私は、つくづく、日本は平和で、いい国だと思う。