鵜の目鷹の目ココロの目 第29回
恥の上塗りの上塗り 志村史夫
あの小保方さんが老舗大手出版社から「手記」を出した。
週刊誌の広告の見出しによれば「印税700万円前払い!」とのこと。売れない本ばかり書いている私としては羨ましい限りである。事実、発売当初からすさまじい売れ行きのようである。
新聞記事や週刊誌の見出しから、推測すれば、あのSTAP細胞の実在を主張し、一連の理研の調査、共同研究者、上司、マスコミに対する批判が書かれているらしい。
正直に言えば、私も読んでみたい気持ちはあるが、買う気がしないので読んでいない。
小保方さんの「STAP細胞疑惑」が発覚したのはちょうど2年前のことである。その後の理研関係者らの追試によっても小保方さん本人によってもSTAP細胞は再現できず、「疑惑」は「クロ」と結論された。
2014年4月1日出された理研調査委員会の「最終報告」に不服を申し立てた小保方さんは、直後の4月9日、二人の弁護士同伴で記者会見に臨み「STAP細胞の作製には200回以上成功している」と述べたが、科学の世界では「当事者」が何回成功したとしても、それが第三者によって確認されなければだめなのである。あのSTAP細胞については、第三者どころか、当事者の小保方さんですら再現できなかったではないか。
じつは、私は2014年7月に上梓した『一流の研究者に求められる資質』(牧野出版)でも「STAP細胞疑惑」に触れ、「学者・研究者としてあるまじきこと」の項で「いかなる大発明も大発見も第三者による追試によって確認されなければ、科学の世界では認めてもらえないのである。再現性があるということが、科学においては決定的に重要なのだ」と書いた。また、該当論文の内容以前に、小保方さんの論文自体に弁明できるとは思えないいくつかの不正があったことも動かしがたい事実であることも指摘した。
そもそも、科学者が科学に関する問題で、科学とは無縁の弁護士同伴で記者会見に臨むこと自体が異常である。小保方さんの感覚はもはや科学者のものでも研究者のものでもなく、自ら科学者、研究者の立場を放棄したことになる。まさに「恥の上塗り」以外の何ものでもなかった。
そして、今回の「手記」の発刊である。
純粋に科学、学問、研究の問題で言いたいことがあるのであれば、学界、学会誌の場で主張すべきであった。彼女は、再度、科学者、研究者の立場を自ら放棄したことになる。
まさに「恥の上塗りの上塗り」であった。