鵜の目鷹の目ココロの目 第28回

 カネは人間を劣化させる 志村史夫

 

 

 またまた、「政治とカネ」が原因で、大臣が辞任した。

 この種の話は、まさに「茶飯事」であり、いまさらニュースの価値もないと思うのであるが、辞任した大臣が安部内閣の中軸の一人らしいのか、マスコミで大きく取り上げられた。

 昔から現在まで、時代、国を問わず、犯罪、不正、スキャンダルのほとんどは、金銭がからんだものである。金額はさまざまであるが、人間は“カネ欲しさ”、“カネ惜しさ”のために多種多様な悪事をはたらくのである。私には理解に苦しむことであるが、微々たる公金を不正に使った罪で、一生を棒に振る人間が跡を絶たない。まったく愚かなことだと思う。政治家も「小もの」であれば「一生を棒に振る」ことになるのであろうが、「大もの」になればなるほど「不死鳥」のごとく蘇ってくるのが政治の世界であるが、「まともな人間」としては恥ずべきことであることに変わりはない。

たしかに、カネでほとんどのモノを手に入れることができる。まさに“金力”と呼ぶにふさわしいほど大きな力を持つものである。だから、誰でも欲しがる。そのようなものを、たくさん得ようと努力するのは決して悪いことではないし、悪事の結果でない限り、私は一般論として“金力”は能力と努力の運の結果の一つとして敬意を表するのにやぶさかではない。 

 しかし、貨幣が持つ、もう一つの機能である“価値蓄蔵”が人間に悪事をはたらかせる元なのである。私は、このような“価値蓄蔵”の機能を有するカネが諸悪の根源であると思う。

この世に貨幣というものがなければ、人間はこれほどまでには劣化しなかったのではないか。

じつは、昔、貨幣のない国があった。トマス・モアが描く「ユートピア」である。

 モアは次のように書いている。

 

 思うに、ユートピアでは、貨幣に対する欲望が貨幣の使用とともに徹底的に追放されているのであるから、どれほど多くの悩みがそこから姿を消していることであろうか。

 また、悪徳と害毒のいかに大きな原因が根こそぎ断ち切られていることであろうか。詐欺・窃盗・強盗・口論・喧嘩・激論・軋轢・譴責・抗争・殺人・謀逆・毒殺−−こういったものは日毎に処罰しても復讐を企てこそすれ、決して防ぐことの出来ないものであるが、それこそ貨幣が死滅すればそれと同時に死滅するところのものであることを誰が知らないであろうか。同じように、恐怖・悲哀・心痛・労役・苦闘といったものも貨幣が消滅したその瞬間に、消滅するのではないだろうか。(平井正穂訳)

 

 まさに、「ユートピア」とは「どこにもない場所」なのである。