鵜の目鷹の目ココロの目 第23回

 国歌独唱 志村史夫

 

 

 

 今年のプロ野球日本シリーズは、パリーグ覇者のソフトバンク・ホークスがセリーグ覇者のヤクルトを寄せ付けず4勝1敗で連覇を達成した。レギュラーシーズン、クライマックスシリーズで圧倒的な強さを見せていたから、「短期決戦」の難しさがあったとはいえ順当な結果だろう。特に今年は、対戦した両チームに「トリプル3(打率3割以上、本塁打30本以上、盗塁30個以上)」という稀有な傑出した打者がいたことが興味を大いに膨らませてくれた。長いプロ野球史の中で「トリプル3」打者は8人しかいなかったのだ。それが、今年は同時に2人も出て、さらに、日本シリーズを争う両チームにいるというのだから、格別に盛り上がらぬはずはなかった。

 日本シリーズの初戦は10月24日、ソフトバンク・ホークスの本拠地である福岡ヤフオクドームで行なわれ、オープニング・セレモニーの中で国歌「君が代」がイタリア・ミラノ在住のテノール歌手・榛葉昌寛さんによって独唱された。私は、この榛葉さんとの縁で、初戦に招待され、幸運にも榛葉さんの「君が代」独唱を現場で聴かせていただいた。私は本格的なテノール歌手によって、崇高に歌われ、ドーム球場内に響き渡った国歌「君が代」に感動させられた。榛葉さんの歌う姿勢もすばらしかった。

 国際的なスポーツの試合やさまざまなイベントなどのオープニング・セレモニーで国歌が歌われたり演奏されたりするのは珍しいことではないが、国歌を独唱する歌手はさまざまである。

 もちろん、さまざまな作家によってさまざまな小説が書かれるように、さまざま画家によってさまざまな絵が描かれるように、さまざまな歌手によってさまざまな歌が歌われるのはかまわない。

 しかし、私は国歌だけは歌手に、日本語で歌って欲しいと思うのである。少なくとも、日本語で歌って欲しいと思うのである。ときに、日本人として、ヘンな発音の日本語で歌われる国歌に接することがある。あれは勘弁して欲しい。

 もちろん、国歌が歌われるイベントの多くは、いってみれば「客商売」であろうから、その「商売」のことをかんがみ、「人気」を優先して歌手が選ばれることがあるであろうことは想像に難くない。結局、最終的には、イベントの主催者によって国歌独唱の歌手が決定されるのであろう。

 このように考えてみると、国歌がどのような歌手によって歌われるかに、そのイベントの主催者の見識が現われるのではないかと、私はひそかに思っている。そして、私は、本格的なテノール歌手に国歌を独唱させた今回の日本シリーズ初戦を主催したソフトバンク・ホークス関係者に大いなる敬意を表したいと思う。

 これから、2020年のオリンピック開会式に向けて、国歌独唱の歌手が関係者によって、また、さまざまな「力関係」を考慮して選考されるのであろうが、われわれ日本国民が世界に向けて堂々と誇れる歌手が選ばれることを心から祈っている。国立競技場やオリンピック・ロゴで見せ付けられた「日本の恥」が繰り返されるようなことがあっては断じてならない。

蛇足ながら、10月24日の日本シリーズ初戦のテレビ放映についてひとこと述べておきたい。

 この初戦はNHKとTBS系の2局が生中継した。

私は、この2局によって国歌独唱がどのように扱われるかに興味があったので、両放映ともに録画しておき、帰宅後、それを比較した。

 

 民放のTBS系がきちんと歌手を紹介し、国歌が最初から余裕をもって流されたのに対し、こともあろうに、「国民放送」のNHKでは、時間調整に失敗したのか、事前録画の選手へのインタビューのために国歌の入り方が不自然であった。このような「生放送」になってしまうのも、NHKという放送局の見識の現われの一つなのであろうか。