小泉すみれの最新ドラマ時評  小泉すみれ

 

第九回 『DOCTORS3 最強の名医』


なんと、今クールいちばんたのしみに視聴しているドラマがこちらである。シーズン1から見てきてはいるものの、まさかこんな日がくるなんてね。


「まさかこんな日がくるなんてね」と書いたワケはいくつかある。まずひとつめに挙げたいのは、『DOCTORS』をはじめて見たときの戸惑いに関係している。わたしはこのドラマをどうとらえてよいのか、解釈を持て余していたのだ。


正直なところ、第一シーズンはかなりいい加減に流し見していた。お話は沢村一樹ふんするスーパー外科医・相良(さがら)が、大学病院を退職して地域密着型の堂上総合病院に赴任するところから始まった。相良医師は堂上総合病院において、次期院長が約束されている森山医師(高嶋政伸)と対立する。


このふたりは年齢の近い外科医として腕を競いあうなどといった単純なライバル関係ではない。医師としてとてつもない高みから患者を見ている森山医師をまえに相良医師はつねに一歩ひいており、「ひと芝居うつ」といった方法で森山の取り巻き連中を巻き込みながら教訓を与えていく。


この「ひと芝居」が、じつに数話にわたって繰り広げられるのである。なるほど、タイトルが複数形になっているのは、いろいろなタイプの医師のありようを描くということの表明なのか、と思ったのだが、なにぶん沢村一樹の目ヂカラがあやしすぎて、その芝居が「ひいては患者さんのため」という大義にもとづくものなのか、それともなにか大きな野望に根ざしているものなのかがわからないのだ。


もやもやした。そうして、この作品に深入りできないおのれの視聴っぷりを沢村一樹のあやしげな目ヂカラのせいにしていたわけなのであるが、しかしである。わたし自身が昨年、手術やら入院やらで複数の医療関係者に接してみて、ようやくお腹の底までこの作品が入ってくるようになったのだ。このドラマでは、見所として、高嶋政伸演じる森山医師の<度が過ぎる思い上がりっぷり>がかなりの滑稽さで演出されているのだが、実際に自分がそういった医師たちに困らされたことで、「冗談ですむ世界じゃないんだな」と痛感した。そこにあるのは、言葉でストレートに伝えても、医師たちの気持ちにはまったく届かないであろうという絶望であった。


ドラマにおける相良医師の<ひと芝居>にしても、数話を要するほど大きく仕掛けても森山医師たちのドクターマインドにはなかなか響かないようであるが、シーズンを重ねるごとに少しずつ変化が生まれてきてはいる。しかし、ひねくれているものはひねくれているままだし、密告者は密告する。簡単には医師としての素地は変わらないのだ。


この、一朝一夕には変わらない感じ。なにかに似ているなあと考えているうち、今シーズンでようやく思い至った。あの『渡る世間は鬼ばかり』のお姑さんや小姑たちを見ているときのじれったさなのだ。<ひと芝居>が終わって、それぞれの気持ちが近づくのかと思いきや、キャラクターたちの性根はほとんど変わっていないため、また次に同じような問題が起きていく。いらいらする。しかし、それこそがつづいていく人生の存在証明なのである。


『DOCTORS』シリーズは、言ってみれば<医療ドラマ界の渡鬼>なのではないだろうか。そう思いながら、しみじみとこの作品を視聴している今日この頃である。


さて。ふたつめの「まさかこんな日がくるなんて」であるが、それは、ニッポンが誇る<ザ・ハンサム俳優>のツートップ、谷原章介と沢村一樹の主演作品が同じクールに見られるというミラクルハッピーなドラマ界の現況&めぐりあわせである。


このおふたりは、連ドラエピソードの中興の存在とでもいうのか、5〜6話あたりで数話のみのピンポイントキャストとして画面に登場するだけで、<ヒロインを惑わせる元カレ>というような役どころを一瞬にして視聴者に納得させてしまう<絶対ハンサム感>をたたえている。が、そんな彼らの使い勝手のよさと闇雲にキラッキラしすぎている存在感から、たくさんの作品に登場することが困難なのではないかと懸念していたところ、このたびのクールにめぐまれた。生きてはみるものだ。しみじみ。


☆Data

毎週木曜夜9時スタート

http://www.tv-asahi.co.jp/doctors/


☆ひとくちメモ

脚本はオリジナルで、福田靖氏が担当している。大河ドラマの『龍馬伝』や『救命病棟24時』シリーズでもおなじみのかた。わたしはこのかたが担当している回の『救命病棟シリーズ』の江口洋介が繰り出すクールなセリフが好きである。『DOCTORS』シリーズに出てくる症例や家族模様も、『救命病棟シリーズ』に遜色のない、身につまされるものが多い。医療ものの視聴をつづけるには、やはり、症例ありきなのだと思う。