小泉すみれの最新ドラマ時評  小泉すみれ

 

第八回 『問題のあるレストラン』


坂元裕二脚本のドラマは一話目の冒頭からしてまったく気が抜けない。いくつかの話法が入り乱れる<語り>が仕組まれているからである。


この作品のファーストシーンはヒロインである<田中たま子>による静かなモノローグから始まっている。働く女性が抱いている仕事への思い、意気込み、そして願いのようなもの。それらが真木よう子の魅力的なハスキーヴォイスによって語られるなか、同時に流れている映像はヒロインがパトカーで連行されていくところという思わせぶりな場面である。が、その後、物語の終盤になるまでナマの田中たま子はいっこうに登場しないのである。田中によって呼び出された六人の女たち(うちオカマ一名)が、田中を待ちながら、それぞれの目線で田中についての語りを繰り広げていくのである。


『最高の離婚』では、主人公(瑛太)が、歯科医院の椅子に寝かされながら、早口で自分の生活の不幸について振り返り、語りすすめるという始まりかただった。この話法の入り乱れ方、一度始まったらわりあいに長くなっちゃう語りの入り方は、坂元作品を愛する者にとっては「待ってました」というかんじで、この入り組み具合をこそわたしはドキドキしながら味わうのである。


さて。このたびの物語『問題のあるレストラン』の大きな縦軸は、「無職状態に陥っている寄る辺ないポンコツ女たちが極上のポトフだけを売りにレストランを立ち上げる」というものである。ヒロイン田中(真木よう子)が裏原宿の荒れ果てたペントハウスを借りてレストランを開店しようと招集をかけた女たちは、口々に「こんなところでできるはずがない」と言い、尻込みをする。そんな女たちに向かって田中が言うのが、次のセリフである。


「何が起きるか予想できないから、いろいろ面白くなったりするんじゃないですか。不安は人生を彩るスパイスですよ」


・・と。


このセリフを聞いて、ピンときたかたは古くからのドラマファンですね。そう、同じ坂元脚本の大ヒットドラマ『東京ラブストーリー』で、赤名リカ(鈴木保奈美)がカンチこと永尾完治(織田裕二)に言った「何があるかわからないから元気でるんじゃない」というセリフからの地続きなのだ。


さらにいうとこのセリフは、赤名リカが心のバイブルにしている『赤毛のアン』からの引用である。というわけで、じゃっかん理屈っぽくなってしまったけれど、『問題のあるレストラン』で田中が女たちに言ったセリフは、<アンとリカとたま子>の三人が時空を超えてわたしの脳のなかのお花畑で出会った、貴重な瞬間をはらんでいたわけである。


コメントによれば、坂元裕二はこの作品を「女性応援コメディ」にするつもりらしい。そこは期待したいところだ。しかしながら、一話目に登場した田中たま子の友人(鈴木亜希子)がうけていたセクシャルハラスメントの描き方は正直ひどかった。仕事で問題を起こしたお詫びとして、女性社員が役員全員のまえで素っ裸になり、くるっとひとまわりしてみせるというものなのであるが、これはさしづめ花咲舞なら黙ってないだろうし、半沢直樹なら10倍くらいにして返すところであろう。


昨年、セクハラ&パワハラの描きかたについては、ドラマ視聴者の頭の中に<池井戸基準>というものができたように思う。すなわち、池井戸潤原作の企業ドラマが見せてくれた、<録画&録音で相手に証拠を突きつけ、ぐうの音も出ないようにする>という、水戸黄門の印籠よりもわかりやすい痛快な解決方法である。そんな解決方法をとらなかった『問題のあるレストラン』が、どのような<女性応援コメディ>を見せてくれるのか、おそらく池井戸基準よりもスカッとする解決っぷりが考えられ、用意されていることだろう。わたしはほんとうに期待している。




⭐︎Data

『問題のあるレストラン』

フジテレビ系 毎週木曜午後10時〜

http://www.fujitv.co.jp/mondainoaru_restaurant/