小泉すみれの最新ドラマ時評  小泉すみれ

 

第七回 秋の連ドラ最終回


のんびり秋ドラの最終回など見ているうちに、連載一回分、スキップしてしまいました。お読みいただいているみなさま、ウェブスタッフさまにお詫び申し上げます。


・・・さて。


もう一週分あるような心積もりだったのだけれど、このたびの秋の連続ドラマは<全10回>が多かった。そのため、自分のなかの<絶対連ドラ感>が寸止めを食らったような気分である。大好きだった『ドクターX』や『きょうは会社休みます。』や『ごめんね青春!』がいつまでも続くってわけはないのに。ほんとうにバカである。


今回は、最終回まで見た作品について、ぱらぱらと感想を綴ってみる。



☆『Nのために』

<小出恵介問題>と自分のなかだけで呼んでいるのだが、かなり好きな俳優さんなので、テレビドラマ界における彼のここしばらくの動向を熱く見守っている。ちなみに、今年はNHKの時代劇『吉原裏同心』という主演作もあり、小出ファンにはうれしい年だった。


『Nのために』では、留年を重ねた作家志望の大学生役から、なんと10年以上もの年月にわたってキャラクターを演じていたが、9回目で見せてくれた小出恵介の後ろ姿がすごかった。居酒屋の椅子に座って少し左肩を下げたその背中だけで、叶わなかった思いや喪失感といった<強烈なもの悲しさ>を表現していたのである。


そういえば映画『ボクたちの交換日記』にも、小出恵介の遠ざかっていく背中を長く映しているシーンがあり、このときのたたずまいも感心しながら見ていた。なんだか体の一部だけ褒めてるみたいになってしまったけれど、背中だけで表現された情感に二度惚れした次第である。



☆『ディア・シスター』

終盤に入って、石原さとみ演じるトラブルメイカー的な妹が、難病の<全身性エリテマトーデス>を患っていることが明らかになった。発症は20歳のときだそうである。


大切な友がこの難病と闘っているため、わたしはつねづねこの病気について知ろうと努めている。そのうえで書くが、あえて妹を、この難病という設定にした理由がわからなかった。


設定について、番組の最後とホームページ上にエクスキューズが掲載されている。以下の文言である。


『石原さとみさん演じる主人公・深沢美咲が発症しているのが、SLE(Systemic Lupus Erythematosus 全身性エリテマトーデス)です。SLEには、多様な症例があり、症状の程度は人によってさまざまです。このドラマはフィクションで、描かれているのはごく一部の症状です。』(http://www.fujitv.co.jp/dearsister/sp_sle/index.html)


ここにあるように、「多様な症例があり、症状の程度は人によってさまざまです」と明言するのであれば、ドラマの設定として取り上げるには視聴者に伝わりにくい側面や誤解が生じてしまうのではないだろうか。


ほかの病気にするという選択肢もあったであろうし、たとえば大ヒットドラマの『ビューティフルライフ』(TBS、2000年)のように、車椅子に乗るヒロイン(常盤貴子)は<ALS>ではないかと仄めかしつつも、番組中では病名が明らかにされなかった作品もある。


ほかにも、女性器まわりの病気であるとまでは言及されているが、具体的な病名や症状を明かさず、あえて曖昧にしている作品もある。いずれも、作品の魅力がそれで損なわれたとは感じなかった。


『ディア・シスター』においては、当初から<妹の病気><死ぬこともありうる>というフラグが立てられていたものの、終盤になってリアリティのためだけに具体的な病名を出したように感じられた。


<とくに何者でもない宙ぶらりんな女の役>を天真爛漫なエロさ満開で魅力的に演じていた石原さとみを見るのが楽しかっただけに、病名の件は慎重に扱ってほしかった。



☆『ドクターX』

連載の2回目で、<アルデンテ女優>としての米倉涼子の魅力について触れたところ、たくさんのかたから反響をいただき、うれしかった。


<スーパー外科医>を主役にしたドラマでは、『医龍』も人気のシリーズだが、<高度国際医療センター>の設立という縦のプロットが共通しており、お金の有る無しで生じる現代医療の格差を痛感させられる。


わたしはこの秋に難しくない外科手術を受けたのだが、この『ドクターX』と『医龍』の見過ぎで、肝心の手術はふだん診察してくれている医師ではなく、「いつのまにか現れた辣腕外科医が担当してくれるのだろう」くらいのお花畑満載の気分でいて、いざ手術が近くなったときに現実を知り、かなりがっかりした。大バカである。


それでいうと、『ドクターX』の外科医・大門未知子(米倉涼子)は、大好きな手術だけしてしまえばそのあと何年にもわたる術後の検診は一切していないのだろうか、などと思ってしまうところである。


が、しかし! である。手術が終了した後、大門未知子は、必ず患者の右肩に手を置いて念を注入し、なにごとかを右耳に囁いているのだ。


終盤では、「がんばれ」と具体的な音声で聞こえたこともあった。この大門の、患者自身の生命力に訴えかける祈りのような仕草がわたしはとても好きだった。もちろん、患者は麻酔がかけられているため、大門の言葉や仕草を知るよしもない。


これは、実在する外科医から米倉涼子がヒントを得たうえで採用されたシーンだそうである。「態度が悪くても、スキルだけは超一流で、一手術にすべてを入魂する」という外科医ドラマにおけるスーパーヒーロー幻想に、絶妙なタイミングでのせられた愛すべきフレーバーのありようを見て、うれしかった。



さて。


次回の<最新ドラマ時評>は来年の更新になる。<年末年始といえばスペシャルドラマ>を見るのを楽しみにしていた身には、昨今のドラマ不況っぷりが残念で仕方ないが、とりあえずフジテレビの三谷幸喜脚本作品『オリエント急行殺人事件』はかなり楽しみにしている。


ここまで読んで下さったみなさま、ありがとうございました。来年も心動かされるドラマに出会えますように!