小泉すみれの最新ドラマ時評  小泉すみれ

 

第四回 『リーガルハイ・スペシャル』



まれに、それはほんとうにまれなことなのだけれど、連続ドラマを見ていて、ふと、「神々の戯れだ・・」と感じる瞬間が訪れる。


それは登場人物どうしの、おもに二人きりのトークシーンであることが多いのだが、その人物たちの間の空気には悠久すら感じさせる大らかさが漂っている。「このままドラマの時間が続けばいいのに」と思う。まるでギリシャ神話の神々がオリュンポスの園で寛いでいる場面に一介の人間が居合わせて、ついつい戯れを盗み見ちゃったようなイメージである。


幸福なことに、今年はその<神々の戯れ級ドラマ>がすでにあった。『続・最後から二番目の恋』である。小泉今日子と中井貴一、主演二人の中高年がひたすら優雅に飲んだくれるだけのシンプルなシーンだったが、わざわざ南仏ニースで撮影していた。さすが神々。


そして、このたびの『リーガルハイ・スペシャル』である。


全戦無敗の敏腕弁護士であり、かなりエキセントリックなキャラクターの主人公・古美門(こみかど)を演じるのは堺雅人。なにかふっ切れたようなコミカルな演技もキレッキレに冴えわたり、相棒役の新垣結衣のキャラもまた彼のお子ちゃまっぽさに見事にシンクロしていた。が、このたびハタと気づいたのは、事務員役でこのシリーズにレギュラー出演している大御所俳優・里見浩太朗の素晴らしさであった。


彼の役どころは、主人公である弁護士(堺雅人)の、自宅兼事務所に内勤している「服部さん」というイチ事務員なのだが、経歴は謎で海外暮らしも長かったらしい。ほとんど常駐していて、主人公たちに極上の料理やワインを提供する。家事一般に長けており、お子ちゃま経営に流れがちな弁護士事務所を支える存在である。


「服部さん」は、見た目はマッチョな老人というテイなのだが、年齢を超えて性別を超えて、ただもう主人公に仕えている。「服部さん」の料理を楽しみにちょくちょく顔を出す情報屋(田口淳之介)は神出鬼没で、さながらキューピッドのような存在だな・・と思った瞬間に、あの幸福な<神々の戯れ>のときが訪れた。そして思ったのだ。神々の座の中心にいるのは主演の堺雅人ではなく、イチ事務員役の里見浩太朗なのではないか、と。


ちなみに、今回のスペシャル版は医療過誤裁判をめぐる物語であった。登場する俳優陣は古谷一行、吉瀬美智子、大森南朋、東出昌大、剛力彩芽・・と豪華な顔ぶれなのだが、なんと私はドラマの途中まで剛力彩芽が出ていることに気づかなかった。


愕然とした。そういえばネット上のニュースで、彼女が出演するにあたり、堺雅人が何か気の利いたコメントを言っていたにも関わらず、である。


これはどうしたことだろうか。実際、剛力の存在感をうっかりスルーしてしまうほど、レギュラー陣のキャラの切れ味がよすぎて、それ以外の、具体的な案件のシーンとなると、さながら<再現ドラマ>を見ているようだった。


新参の共演者にとっていいのか悪いのかわからないが、ある意味、それが連ドラを2クール経た人気シリーズの、新しいキャラクター存続のカタチなのだろう。


皮肉なことに、「我々弁護士は神ではないのだから」というのが主人公・古美門の口癖である。が、彼の演じるキャラクターはすでに神のひとりになってしまったのだ。そして、<神々の戯れ>とまで感じてしまったシーンのあとでは「主人公は神なのだから、どんなに不利な依頼を受けたとしても裁判は圧勝だろう」と、すがすがしい気持ちになった自分がいた。


<神々の戯れ級ドラマ>に出会うことはドラマファンとしての無上の悦びなのであるが、困ったことにその瞬間を覚えてしまうと、その作品に関して、そこで充たされてしまう感は否めない。


というわけで、『リーガルハイ』シリーズ。この先いくらでも続けられそうだけど、ここらで後口よく終わっといてほしいなあとも思う。



☆Data

リーガルハイ・スペシャル 

フジテレビ系土曜プレミアム11月22日放送

http://www.fujitv.co.jp/legal-high/topics/


☆ひとくちメモ

タイトルについて

第一シーズンでは『リーガル・ハイ』というタイトル表記だったが、第二シーズンでは中黒が外れ『リーガルハイ』になった。謎である。