小泉すみれの最新ドラマ時評 小泉すみれ

 

第二回 『ドクターX〜外科医・大門未知子』第三シリーズ


アルデンテ女優。私は米倉涼子をこっそりそう呼んで愛している。


アルデンテ女優とはなにか。私の定義では、100%情緒たっぷりの名演を出し切るのではなく、少しだけ中心に生硬な芯を残している女優である。


その中心部にある<芯>には、見る者自身が投影できるなにか、柔軟なあそびの部分が残っている。単なる<余白>ではない。もちろん、<伸びしろ>というのとも異なる。それは、奇跡のように女優本人のなかに残っている<かたさ>である。


モデルなどの職種から転じてきた俳優は多いが、アルデンテ女優の持つ<芯>は、駆け出しの<棒読み期>からそのまま<かたさ>が残ってしまったものではない。どこか「見てるあなたの好きにして」という潔い投げ出しっぷりがあるからこそ、あえて残ってしまった<かたさ>なのだと思う。そして、日本には、このような<かたさ>をもった俳優を見て解釈を満喫し、愛する観客が多いという土壌がある。


実際、ドラマでも映画でも、アルデンテ女優のその<かたさ>を求心力にして、周りのキャラクターたちが絶妙に動いている。キャラクター解釈や動きといった実際の<余地>が彼女の周りに生じているのである。


今回の『ドクターX』シリーズで彼女を取り巻く重鎮ドクターを演じるのは北大路欣也、西田敏行、伊東四朗、岸部一徳、中尾彬などなど凄い面々である。メンツも凄いが面構えのほうも大げさである。顔もでかい。態度もでかい。全員が全員、下瞼のホルモンタンクの膨らみっぷりが素晴らしく、一目して悪いことを考えて実行していそうである。彼らはまさに米倉シフトにはもってこいの布陣であり、各俳優たちのテイストもまた自由に活かされている。


そう。彼女から絶妙に派生した<余地>は老優たちをも活かし、大げさで大がかりな構造を持った作品にこそよく映える。それゆえに米倉ならではの主演作には<特殊職業モノ>が多いのだろう。


が、しかし。米倉に<特殊職業>を演じさせたらなんでもいいというわけではない。2011年の『HUNTER〜その女たち賞金稼ぎ』(フジテレビ系)では、指名手配犯を捕まえて報奨金をもらう「バウンティハンター」に扮したが、冒頭から「等身大の女性キャラクター」を前面に押し出した「あるあるエピソード」満載の内容で、視聴者がのぞんでいる彼女の良さがすっかり封じられてしまった。


高視聴率を叩き出す女優として君臨する半面、彼女には<等身大>が似合わないという禁忌があるといったらあるのだろう。が、いつもいつも新しいことにチャレンジしなくたっていいじゃない。私はこの奇跡のように生じたアルデンテ女優、米倉涼子のキャリアの季節をもうしばらく楽しみたいと思っている。



☆Data

ドクターX〜外科医・大門未知子 テレビ朝日系毎週木曜21時〜

http://www.tv-asahi.co.jp/doctor-x/


☆ひとくちメモ

外科医・大門未知子(ドクターX)とは・・・

38歳。フリーランスの外科医。都内大学病院の医局を退局後、キューバの医大に進学し、僻地医療や軍医として叩き上げの経験を積む。帰国後は大学病院の医局には属さず、莫大な借金をカタに名医紹介所から派遣される外科医として数々の難手術を成功させる。趣味:手術。特技:手術。群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌う彼女の武器は「専門医のライセンスと叩き上げのスキル」。口癖は「私、失敗しないので」と「医師免許を必要としない雑務はいたしません」。第三シリーズとなる今回、彼女が派遣されたのは、東西の大学病院の派閥争いの場と化した「国立高度医療センター」。医師にとって技術とはなにか、先端医療とはなんなのか。究極のテーゼを内包したキャラクターである。(参考:番組公式HP)