小泉すみれの最新ドラマ時評 小泉すみれ



第一回 『きょうは会社休みます。』


はじめてのかたはじめまして、小泉すみれです。これから毎週更新でドラマ時評を書きます。産地の国内外を問わず、気持ちを駆り立てられたテレビドラマを取り上げていく予定です。折をみつつ、私のドラマ遍歴や日本のテレビドラマ史などにも触れていく所存でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます☆



・・・と、ですます調はここらで失礼。初回は綾瀬はるか主演の『きょうは会社休みます。』を取り上げる。今クールの連ドラでもっとも楽しみに視聴している作品である。


 つねづね思っていることだが、女優には一人称の語りをすることが作品中で許される特別な存在とそうでない者とがいる。まずは、私の大好きな綾瀬はるかが30歳を前に立派な<一人称女優>としてドラマ主演を果たしていることがうれしくてたまらない。


物語は、綾瀬扮する商事会社のOLが30歳の誕生日を目前にして、21歳のイケメン大学生(福士蒼汰)を相手に処女喪失することから始まる。恋に奥手なだけでなく、ただでさえ9歳年下のイケメンが相手である。ヒロインの心には後ろ暗い考えや妄想などが広がっていく。


しかし、ここで重要なのは、それらについてのモノローグが綾瀬はるかによって繰り広げられていくということである。ヒロインの、イケてない自分自身のキャラに対してやるせなく毒づいてしまうおずおずとした声質がほんとうに素晴らしい。なんなら彼女の語りのおずおずの渦に溺れたいがために、その部分だけ何度も繰り返し再生している。


ドラマのテーマはそんなおずおずの渦に呑みこまれ自滅してしまいそうな「こじらせ女子の恋愛っぷり」である。<こじらせ女子>とはどんなものであるか、番組が示している定義については欄外に示したので読んでいただくとして、このドラマのヒロインは女子としての生きにくい部分にむずがりながらも、心のなかのツッコミの声のほうはなかなかにしたたかである。一見おずおずと慎ましやかでありながらも、心のなかではしっかりと、おのれの底に流れている<計算高さ>へのおののきや女子としての<腹黒さ>といった意識の流れを見据えている。


このヒロインのもつツッコミのセンス、意識の流れの詳細さ、そして寄せては返す波のように自己嫌悪と有頂天とを行き来するうねり具合ったら。モノローグは綾瀬のおずおずとした声帯に腹黒さのエッセンスをまとわせて、絶妙なテイストになっているのである。


このように味わい深き女子の意識の流れの表現がいったいどうしてドラマに活かされるようになったのかといえば、それはまさにブログ、ツイッターなどのツールが普及している現代だからこそであろう。おのれのこころの底にある言葉をすくいとって正直につぶやける場および機会がこのようなおんなの自意識を増長させ、育んできたのである。


私のようにバブル期に就職しわりかしハキハキものを言える女でも、30歳当時は、酔った勢いを借りるか、日記を落とすか、よほどうっかりでもしないかぎり、パンチの効いたつぶやきが心の底辺に流れていることなど、誰にも気づいてはもらえなかった。


この時代に一人称女優・綾瀬はるかと出会えたのは至福である。今クール、またあたらしいヒロイン像がドラマ界にアップデートされた。日本のテレビドラマはまだまだやれる。こんな意識の流れに出会えるのだからテレビドラマファンはやめられない。




Data

『きょうは会社休みます。』日本テレビ系毎週水曜夜10時

http://www.ntv.co.jp/yasumimasu/index.html



ひと口メモ

<こじらせ女子>とは・・・(日テレ公式HPより)

其の一 自分の中の女子力に自信が持てない

其の二 他人まかせ

其の三 うたぐりぶかい

其の四 甘え下手

其の五 敵は天然モテ女

其の六 学生時代の人間関係にトラウマがある

其の七 寂しさに慣れている

・・・だそうです。