宗教学者の父が娘に語る宗教のはなし 第1回    島田裕巳

 

 いつもメールでやり取りしているので、改めてここで書く必要もないのかもしれないが、君も元気でやっているようで、それは何よりです。

 考えてみれば、君は小学生の頃から、けっこう外国のことに興味を持っていたよね。だから、将来はきっと留学することになるのではと思っていたけれど、やはりその通りになりましたね。

 子どもの頃の君は、アメリカのバラエティー・ドラマをよく見ていたし、だんだん洋楽にもはまっていったよね。

 その一方で韓国のアイドルグループのファンにもなったし、そのせいでいつの間にか、どこかで習ったわけでもないのにハングルが読めるようになっていたのにはびっくりしました。

 何ごとも関心があるかどうかが重要で、人間、興味を引かれた事柄についてはとことん知ろうとするようになる。逆に、無理に勉強させようとすると、かえってそれで拒否反応が強くなったりする。

 留学も、君自身が決めたことだから、それは楽しいに違いないでしょう。これから1年の間、君が何を学んで帰ってくるのか、ママも僕も、それを楽しみにしています。

 そうそう、ここでは肝心な話をしなければならないね。

 イギリスに行ってから、宗教について関心をもったそうだね。

 それは、君は宗教学者の娘なわけだから、海外へ行けば宗教について関心を持つようになるのも、しごく当たり前のことだとは思うけれど、けっこうショックを受けたみたいだね。

 「教会に行く人がほとんどいないのにびっくりした」と君はメールに書いてきた。周囲にいるイギリスの人たちは、日曜日になってもほとんど教会に行かないそうだね。

 やはりそうでしたか。僕は、それほど詳しく調べた分けではないけれど、大学で授業するときに必要なので簡単に調べて見たことがあるんだけれども、たしかに、イギリスでは日曜日に教会に行って、ミサに預かる人の数が激減している。今では10パーセントを切るくらいだということは、前から知っていたんだ。

 君のメールで、それが間違いのない事実だということを教えられたわけだけれど、イギリスでは、今でもキリスト教を信じていると答える人が全体の60パーセントくらいはいるものの、10年前に比べると10パーセントも減っているとか。10年で10パーセントも減るなんていうのは、そりゃ大事だよ。

 反対に、神を信じない「無神論」だと答える人が、全体の4分の1くらいになっているようだね。

 これは最近の傾向で、どうもほかのヨーロッパの国でも同じらしいが、宗教を信じる、この場合はキリスト教を信じる人ってことになるけれど、その割がものすごいスピードで減っているらしい。

 イギリスにはないようだけれど、ドイツやオーストリア、あるいは北欧の国々には「教会税」というものがあるんだ。キリスト教の信者で教会に所属している人は、所得税とは別に、所得税の10パーセント弱くらいを、教会税として納めなければならないという制度がある。

 それで、最近は、どこの国でも政府の財政が悪化して、その分税金が高くなっているから、その教会税を払いたくないと思う人が急速に増えているらしい。とくに若い人たちは、教会に行くという習慣もないので、どんどん教会から離れている。

 そんなわけだから、そうした国々では「教会離れ」が深刻化しているらしいね。君も、イギリスに行ったことで、現地でその実態にふれたというわけだ。

 君も、行くまでは、そんなふうになっているとは考えていなかったらしいね。

 日本人は、キリスト教の国の人は信仰に熱心で、日曜日には必ず教会に通っていると、それこそ昔から信じてきたから、今はそんなことになっていないことにびっくりしたりする。まあ、現地で接してみないとわからないものかもしれないね。