ストレンジな人びと

               作家 清野かほり

連載第8回

 ケータイ3台の男


 今は2014年。平成にしたら26年である。

 バブルがパチッといってから、すでに20数年が経っている。

 なのに、その人のバッグには常にケータイが3台、入っているらしいのだ。

「3台」と聞いて、すぐに想像がつく。

 1台目は、ビジネス用。

 2台目は、プライベート用。

 3台目は、女の子用だ。

 本人に確かめたわけではないけれど、「プライベート」と「女の子」は、間違いなく別なはずだ。

 というのも、その人には妻も子供もいるけれど、「常に途切れることなく、たくさんの女性と付き合っている」という噂があったからだ。ついでに「女性にはアベレージクラスだけでなくブスもいる」と。実に旺盛だ。

 不景気に併せ、男子の草食化、セックスレスが蔓延しているこの時代に、ケータイ3台というのは尋常ではない。

 私は以前から疑問に思っていた。失礼ながらその人は、それほど女性にモテるタイプには見えなかったのだ。「どうして、あの人が?」と。

 その人と会う機会があった。食事をご馳走してくれるという。

 連れて行かれたのは高層ビルの最上階。大きな窓の外には、東京の夜景が広がっている。

 ここは、黒人のボーイさんが運んで来た料理を一品一品、日本語で説明してくれるようなレストランだ。しかもテーブルに置かれているディナーのメニュー表には、値段が書かれていない。

 46年の人生のなかで、値段のはっきりしないお店に行った経験など、本当に数えるくらいしかない。だから少し緊張していた。

 だがワインを飲み、食事をし、会話をしていくうちに寛いでいった。そして先の答えが、徐々に見つかっていった。

 あの大きな疑問、「なぜ彼が女性にモテるのか」だ。

 財力や権力は、あまり問題ではない。その人が持っているのは、女性に対するスキルの高さだ。以下に、箇条書きにしてみよう。

 1.話題の幅が広い。だから、どんな女性の会話にも合わせられる。

 2.人生に対してハングリーである。もちろん女性にもハングリーである。

 3.だが女性に対してのハングリーさは、決して表には出さない。

 4.気遣いができる。マメに連絡する。

 5.紳士の顔と野生の顔を使い分ける。

 ひと言でいうと、できるオス♂なのだ。外見も大した問題ではない。彼はオスとして優秀なのだ。

 1度に発射する精子の数も、きっと相当なものだろう。

 そういえばあるとき、その人はこう言っていた。

「ヤルとすぐできちゃうから、30代のときにパイプカットした」

 なるほど、当たりか……。

 やっぱり女性にモテたいなら〈フルーティー男子〉じゃダメなのか。

 ちなみにその夜、その人は私をお持ち帰りしようとしなかった。

 なぜだ。

 若い女性しかターゲットではないのか。本人に訊くのを忘れてしまった。