ストレンジな人びと
作家 清野かほり
連載第7回
オシャマすぎガール
ミュージシャンが来て生演奏を聴かせてくれるというので、あるレストランに友人と行った。
東京は小雨だったが、そういう日に限って台風が北上していた。席に着いて待っていると、遠方から来るらしいミュージシャン側から連絡が入った。
「台風で行けません」
やっぱりかー。
せっかくなので、お酒を飲んで食事をすることにした。その途中で行った、トイレでのことだ。
親と来たらしい小さな女の子が、私に話しかけてきた。
「音楽する人、来ないの?」
「そうらしいねー。台風が来てるからダメなんだって」
彼女はピンクでフリフリのスカートなんかを穿いている。全身が可愛らしくコーディネートされていた。きっと有名なキッズブランドなのだろう。
名前を訊かれたので「キヨノだよ」と答えた。彼女の名前も訊いたが忘れてしまった(ゴメンね)。年は5歳だという。
話題が豊富らしく、つぎつぎと話しかけてくる。話の内容は忘れてしまったけれど(ゴメンね)。
そういえば、さっきから、彼女が話しかけてくるたび気になることがあった。私を「おねぇちゃん」と呼ぶのだ。
彼女は間違った認識をしている。ここは大人として、正解を教えてあげなければならない。大人としての義務だ。
「あのね、おねぇちゃんじゃないよ、おばちゃんだよ」
「ええーっ!」
彼女は突然、少し怒った表情になった。抗議の目を私に向ける。
なぜだ。私は言わなくてはならないことを言っただけなのに。
彼女は続けた。
「おねぇちゃんでいいじゃない。おばちゃんなんて言ったら失礼でしょ!」
叱られてしまった。
……ああ、すごいわ。よく躾けられている。〈親の教育〉というものがビシバシ効いている。もし自分が親だったら、こんな高度な教育はできないだろう。
トイレを出てフロアに戻ると、彼女のママが待っていた。ママもカジュアルでおしゃれなファッションをしている。
おや? 親が若い。
彼女のママは、どう見ても20代後半だ。ヘタしたら私の娘でもおかしくないような年齢だ。なぜだ。私は何度も首を捻った。
なぜだ。なぜ、あの若さでママは、そんな教育ができるのだ。たった5歳の娘に「おばちゃんを見たら、おねぇちゃんと呼ぶように」という高等教育を、なぜ施せるのだ。
友人が待っている席に座り直して、あっと気が付いた。
そういえば私は友人から「アンタは精神年齢7歳児」と言われるのだった。
なるほど……。
5歳の彼女から見たら、私はやっぱり「おねぇちゃん」なのか……。
いや、そんなワケないでしょ!