ストレンジな人びと

               作家 清野かほり

連載第5回

 ストレン児


 幼稚園が嫌いだった。

 意味の分からない規則や強制が多かったからだ。

 園に持って行くハンカチが指定されていて、その色まで曜日ごとに決められていた。

 月曜は黄色。火曜は桃色。水曜は水色。木曜は黄緑。金曜は白。

 毎日、清潔なハンカチを使っているか先生が確かめられるように、という意図は分からないでもない。

 だが6歳の幼稚園児は、なんとなく憤っていた。

 何それ、勝手に決めちゃって……。

 押しつけられているような感じに抵抗があったのだ。

 そんな私をいちばん憂鬱にさせていたのが〈お遊戯〉だ。

「はーい、みんな、元気に歌って踊りましょうね!」

 そう言われるとガクッと気分が沈んだ。先生が首を振りながらオルガンを弾き始める。

「キンキン、キラキラ、夕日がしずむ〜♪」

 両手を上げて手のひらをパーにする。それでお星さまを作る。手首のスナップを利かせてお星さまを捻り、キラキラさせる。おまけに足踏みしながら、ゆっくりターンだ。

 ヤダよ。そんな恥ずかしいこと、したくないよ。子供だと思ってバカにしてるでしょ。

 その頃、こんな明確な言葉は浮かんでいたはずはないのだが(なにしろボキャブラリーが少ないので)、いま言葉にすると、こんな感じになる。

 お遊戯という、その行為の幼稚さ、強制的にやらされてる感じ。それが、とっても嫌だったのだ。

 でも周りを見回すと、お友達はみんな嬉しそう。お遊戯を満喫している様子だ。お星さまと同じように、瞳もキラキラしている。

 ……楽しくないのは私だけ? なんで、みんなそんなに楽しいの?

 そのときの孤独感といったらなかった。私ひとりだけ浮いている。

「かほりちゃん、もっと元気に踊ろうね!」

 ああ、先生って元気まで強要するんだなぁ……。なんだか両肩が重い。

 大人から見た幼稚園児の私は相当、覇気がなくて、可愛げがなかったはずだ。たとえば大人になった自分がその場にいたら、デコピンの一発でも喰らわしてやりたいところだ。

 だがその生意気さは、小学生になっても、中学生になっても、もちろん高校生になっても続いた。「学校」というところは幼稚園より、もっと規則や強制、押しつけが多かったから。「みんなを均一にしよう」「統制しやすいようにしよう」という思惑が働いていたから。

 でもさ、読者のみなさん。

「ねぇ、私の原稿、読んで楽しかったでしょ? 面白かったでしょ?」

 どうだろう、そう言われたら。ちょっと嫌な感じがしないかい?