ストレンジな人びと

               作家 清野かほり

連載第37回

愛すべき人びと


 ほとんど私は男女の区別をしていない。いきなりプリンに例えると、プリン本体が人間性で、茶色いカラメルの部分が男か女かを分けるもの。それくらいの感覚だ。たとえカラメルが男女をハッキリさせるものでなくても構わない。要は美味しければいいのだ。

 ということで今回は、私好みのストレンジプリンを数人、取り上げる。箇条書き的になってしまうことをお許しいただきたい。


《17の母》

 なんだか、昔の金八ドラマのタイトルみたいになってしまった。

 高校時代からの友人だ。彼女は17歳の夏、家からも学校からも姿を消した。ただの家出ではない。彼女は身籠もっていた。周囲から反対されることが分かりきっていたから、誰にも告げずに姿を消したのだ。そして数ヵ月後、彼女はたった一人で子供を産んで帰って来た。もちろん周囲は絶句した。

 30年近くも前の事件だが、彼女はいまだに、どこでどうやって産んできたのかを教えてはくれない。何度質問しても、ただニコニコ笑ってはぐらかすだけだ。ちなみに産まれてきた子は、びっくりするほど、いい子に成長している。ここも驚くべきポイントだ。

 彼女のその強靱な意志と母性本能は、どこからくるのだろう。たった17歳の女の子が成し遂げた偉業に、私はただただ敬服する。そしてときどき涙を流す。

《33歳のバージン》

 17歳で子供を産んだ女もいれば、33歳にして処女を守り通している女もいる。彼女は素直で清楚で誠実だ。そのへんの男に、簡単にヤラレてしまうには惜しい。だからこの先もその希少価値をさらに高め、本当にいい男性が現れるまで、ぜひとも守り通してもらいたい。

《歩く百科事典》

 以前勤めていた会社の先輩は、おそらく百科事典1冊分の知識が頭の中に入っている。いや、それ以上かも知れない。いつ何を訊いても教えてくれる。彼女が「知らない」と答えることは滅多にない。

 実際、小さな子供の頃から、分厚い百科辞典を片っ端から読んでいたそうだ。さすがに〈グーグル先生〉には敵わないかも知れないが、その知識欲に私はひれ伏すしかない。先輩、スゴイです!

《自慢しない男》

 お酒を飲むと、たいていの男性は自慢話をする。あからさまにはしなくても、さり気なくちょこちょこと自慢話を放り込んでくるのが普通だ。

 その人は知識が豊富なインテリで、自慢できるところなどたくさんありそうなのに、少なくとも私の前では自慢話を一切、しないのだ。その潔さに驚いた。見方をちょっと変えると、自慢しないというのはカッコいい。逆に、自分に自信があるようにも感じられるしね。

《博愛主義のひと》

 口癖は「お金なんて要らない」。なぜかは分からないが、お金を稼ぐことを悪だと思っている。小さいながら会社の経営者である彼は、赤字になってしまう仕事も喜んで引き受ける。なぜなら「みんなを幸せにしたいから」だそうだ。

 私にはなかなか理解できない思考回路だけれど、周囲の人に対する愛情が深いことは理解できる。その愛の深さはきっとどこかで、彼自身に還ってくるだろう。


 リスペクトできる人。人生を教えてくれる人。愉しませてくれる人。笑わせてくれる人。そんな愛すべき人たちに囲まれたなら、人生はもっと豊かになるだろう。自分自身も成長できるだろう。そして本当に自分を愛してくれる人が一人でもこの世に存在するなら、おそらく人生に文句はなくなるだろう。

 誰とつながるか。無意識にでもそれを決めているのは、いつも自分だ。そうだね。そう自分自身に、何度も言い聞かせておこう。