ストレンジな人びと
作家 清野かほり
連載第30回
作家たちのオーラ
最初にお断りしておく。これから数々の大御所・著名作家が登場するが、〈敬称略〉で明記させていただく。大作家の先輩方、どうかお許しくださいませ。
数年前、『三島由紀夫賞・山本周五郎賞』の授賞式&パーティーに招かれた。自分はかなり末席扱い、滑り込みで呼んでもらえたことは承知している。
授賞式では、空いてる席を見つけてサッと座った。途端、隣に座っている人から妙なエネルギーが伝わってきた。何気なさを装って私はチラ見をした。
灰色の着物を着崩した、やや長髪の男性だ。手には指先をカットした、黒革の手袋を嵌めている。
うわ! 京極夏彦だ! うわ〜、京極さんの隣に座っちゃったよ……。
のっけからギクリとするインシデントだ。
その年、山本周五郎賞を受賞した伊坂幸太郎は見事だった。そのスピーチもルックスも謙虚さも完璧。まさに非の打ち所がない好青年という感じ。完璧さもストレンジの一種だ。
わ〜、やっぱり超売れっ子は違うわあ……。
ある雑誌の書評コーナーの同じページに、伊坂さんと私の新作が同時に掲載されたことがあった。記事のスペースは、私のは彼の1/4だ。しかも伊坂さんの書評は絶賛されていて、私のはなんだか微妙な評価だった。彼はそのときの作品『ゴールデンスランバー』で、この賞を獲ったのだった。
ああ、そうね。私が伊坂さんに敵うわけないわな〜。でもやっぱり悔しいわ〜。スピーチを聞いている間中、ずっとそんなことを考えていた。
授賞式が終わると大広間(ホテルオークラだよ、初めて行ったよ)で立食パーティーが開かれた。そこには有名な作家や文芸編集者が、うじゃうじゃいらっしゃった。ここは、まさしく「ストレンジが集まる場所」と言っていいだろう。
真っ先に目を引いたのが、桐野夏生だ。長身でメリハリの利いたボディ。そして何より、日本の中年女性離れした、ダイナミックな顔の造形。写真で見るより迫力がある。そのインパクト、権威のある感じ。なんだか女王蜂に見える。
うわ〜、すごいオーラあるわ〜。
私はすっかりミーハーな一般読者だ。もっと有名人を見ようと場内を歩き回った。
あ、石田衣良! 4人に囲まれて歓談しているが、その相手はすべて女性だ。
わ〜、やっぱりプレイボーイ気質あるわ〜。女の人が寄って来るの、なんか分かるわ〜。
またもや会場内を歩き回った。宮部さん、いないかな。編集者に「モンチッチ」と言われていた、あの宮部みゆきが見たい、と探している途中、担当編集者と出会してしまった。
「あ、キヨノさん!」
彼は驚いた様子だ。私は焦った。
「原稿、大丈夫ですか?」
実は家で、新作の原稿を書いていることになっていたのだ。
「あ、だいじょうぶ、大丈夫です……」
苦しい笑顔を見せながら足早にフェイドアウトした。
ああ、筒井のオジ(筒井康隆)も見たいんだけどな〜、今日は来てないみたいだな〜、残念だな〜。それに恩田陸、あのおかっぱ頭も見たかったなあ〜。
有名人探しに気を取られていると、会場の隅っこに長蛇の列ができていた。その先端に伊坂さんが座っていた。編集者たちは彼に名刺を渡したくて並んでいるのだ。40〜50人が順番待ちをしていただろうか。
いや〜、マジすごいわ〜、超売れっ子!
そういえば、綿矢りさの芥川賞受賞のときは、会場からハミ出すくらい編集者の行列ができたと聞いた。編集者たちの「うちに原稿ください」攻撃は、やっぱり局所に集中する。悲しいことに作家のなかでも、極度の格差が広がっているのだ。その底辺でかろうじて生きている私は、もちろん所得的にも貧困層に属する。泣ける。
いや、泣いているだけでは這い上がれない。貧困から脱出しなければならない。
「頭を使え! 知恵を出せ! 行動に移せ!」
拙著『ID』のために自分で考えたコピーをいま、自分に向かって叫んでいる。