ストレンジな人びと

               作家 清野かほり

連載第27回

山手線の人びと


 東京の中心を丸く走る山手線には、ローカル線や地下鉄が何十本も繫がっている。山手線はそれだけ、いろんな人が乗り合わせる電車だ。だから『ストレンジ』な人にも、よく遭遇することができる。

 ある朝の山手線。わりと空いていたので座席に座った。対面に座っている20代後半くらいの女の人が妙な動きをしている。注視していると、彼女は膝に乗せた大きなバッグから、コンビニのおにぎりを取り出した。フィルムを剥がして食べ始める。混ぜご飯タイプのようだ。私はその光景から目が離せなかった。1個目を食べ終えると彼女は、またバッグからおにぎりを取り出した。今度は自分で海苔を巻くパリパリ海苔タイプだ。お、それも食べるのか。見守っていると、彼女は手順通りにフィルムを剥がし、海苔をきちんと巻いて食べ始めた。黙々と、ただモグモグと。うん、なかなか根性のある女性だ、と思った。

 昼の山手線。ある駅で20代の女性が乗り込んで来た。彼女はスポーツタイプの大きなリュックを背負っている。そのサイドポケットに突っ込まれている物に目がいった。ペットボトルの緑茶らしい。よく見ると、そのお茶が泡立っていた。めちゃくちゃ泡立っていた。泡立ちすぎて、もうお茶ではない新しい飲料に変化している様子だ。一体どうやったら、お茶がそんなに泡立つのだろう。それ本当に飲むの? 〈新感覚・泡飲料〉の飲み心地を想像して、私は密かにほくそ笑んだ。ふふ。きっとそれ、とっても変な飲み心地だよね?

 私の隣に座っている30歳を過ぎたくらいの女の人が、降車駅に到着したらしく立ち上がった。その人の腰の辺りに違和感があった。だからやっぱり見てしまったのだ。デニムとショーツの位置が異様に低い。お尻の割れ目がシッカリと出てしまっている。私は息を呑んだ。彼女がティーンエイジャーなら、それもファッションの一部なのかと思いもするけれど、どう見ても三十路を過ぎている。つい油断して出ちゃったのだろうか。かなりの無頓着さんなのだろうか。私は笑いが顔に出ないよう、堪えるのに懸命になった。

 また別の日。ベビーカーを押している若いお母さんが乗って来た。シートに座っている子供を見て仰天した。1歳くらいの赤ちゃんが手にしていた物、それがスマホだったのだ。ベイビーは小さな人差し指で、画面を上下左右にスクロールしている。思わず訊いた。

「スマホで遊んでるんですか?」

 若いお母さんは少し困ったような、少し照れたような笑顔で答えてくれた。

「もう、オモチャになっちゃってるんですよ~」

 小さな疑問を投げ掛けてみた。

「理解して、使ってるんですかね?」

「ええ、そうみたいで……」

 わ! まさしくネット・ネイティブ!

「すごい! 天才なんじゃないですか?」

 お互い顔を見合わせて笑った。私はいいものを見たと思い内心、喜んでいた。

 ……と、こうして山手線のストレンジを列挙してきたけれど、全員が女性だったことに、いま気が付いた。なぜだろう。女の人ほうがバリエーション豊かで、男の人は画一的ということか。いや、それは言い過ぎか。