ストレンジな人びと

               作家 清野かほり

連載第25回

幸せの秘訣


 ある会社の立食パーティーに招待された。そこに集まったのは仕事の関係者だったが、医師、建築家、絵本作家など、世間から「先生」と呼ばれる人たちが多かった。

 私はその会社でコピーライターとして仕事をさせてもらっているが、サブとして作家という肩書きも持っているから、パーティーに呼んでもらえたのかも知れない。なんだか私も偉くなったものだ。

 パーティーに集まった人びとのなかで、とても目に付く御一行がいた。相撲部屋の新弟子さんたちだ。おそらくまだ10代の、体の大きな男子たち。もの凄いエネルギーを発している。まるでその体から湯気でも出ているようだ。その彼らの近くにいたのが、相撲部屋の女将さんだ。

 女将さんの旦那さまはお亡くなりになられたが、有名な元横綱だ。情報を付け足せば、男前横綱。筋肉質で立派な体格に併せ、精悍なお顔をしていらっしゃった。

 私はたまたま、その女将さんをパーティーの前日、テレビでお見かけした。報道番組のコーナーで、インタビューに答えていたのを拝見したのだ。

 ああ〜、昨日テレビで観た人がいるわ〜。

 デ・ジャ・ヴュ感が伴った、ちょっと不思議な感覚で彼女を見ていた。

 立食中、その女将さんと同じテーブルになった。近くで拝見しても、とても実年齢には見えない、お若くてきれいな人だ。デーブルに集った数人で、自然と旦那さま・横綱の話題になる。私は女将さんの顔を見ていた。表情がイキイキとしている。

 誰かが「とても仲のいいご夫婦でしたね」と話を進めた。そのとき女将さんは微笑し、ぽっと頬を染めて言った。

「私、横綱に愛されすぎたのかしら」

 私の脳細胞に、強烈な電気信号が走った。愛されすぎた……。

 私はその言葉を一度、脳内で反芻し、咀嚼し、解釈した。そして、ぼんやりと回答のようなものが浮かんできたのだった。

 幸せの秘訣。それは信じることだ。思い込むことだ。自分をポジティブに肯定することだ。

 なるほど、きっとそうだ。

 自分は不幸だ、不運だと嘆いてばかりいると、いつまで経っても幸せにはなれない。幸せとは、その人の主観でしかないからだ。いくら周囲の人間が「あの人は幸せだ」と言っても、本人がそう思っていなければ幸せな状態ではない。「あの人は不幸だ」と人が言っても、本人が幸せだと思っていれば、それは立派な幸せなのだ。

 人生の真理にひとつ、気付いたような気がした。

 私も自分を信じて「自分は幸せだ」と思う思考回路を身につけよう。それを自分自身が信じてしまえば、いずれ本物の幸せがやって来るはずだ。

 女将さん、ありがとうございました。いい勉強をさせていただきました。