ストレンジな人びと

               作家 清野かほり

連載第24回

政治家パーティー


 友人に誘われ、ある国会議員のパーティーに行った。閣僚経験もある女性議員の後援会が主催だ。『○○○○さんを励ます会』という名称が付いている。

 特にその人を励ますつもりはなかったが、ふつうのパーティー参加者のつもりで出かけた。だがいつの間にかスタッフ側に回され、なぜか受付業務を割り振られていた。

 なんだ? まるで予期せぬ通牒だ。

 政治家のスピーチを聞いて乾杯などをし、普段は口に入れない料理などを堪能するつもりだったのにさ。

 受付の業務は、参加者の氏名などが記されたチケットを受け取ること。しかも、まだ参加費を支払っていない人からは、その場で直接、現金を受け取るという緊張を強いられるものだった。

 何がどうして、こうなった? 私は何度も首を捻りながら、受付テーブルの前に立った。

「いらっしゃいませ。こちらでチケットをお預かりいたします」

 次々と来場する参加者に、受付嬢らしく頭を下げる。

「入金はお済みですか?」

「いや、まだ……」

 スーツ姿の男性がそう言いながら、バッグから財布を取り出す。

「お預かりいたします。こちらが領収書でございます」

 そんなやり取りを数十回、繰り返した。実に妙な気分だ。

 この受付業務のなかでギョッとされられたのが、受け取ったチケットと現金をホチキスでバチリと留めることだ。業務前に説明を受けたとき、反射的に聞き返した。

「現金をそのまま、ホチキスで?」

 議員の側近らしい女性が微笑して言った。

「はい、そのほうが間違いがありませんので。お金にホチキスすることは、ちょっと抵抗があるかも知れませんが」

 はい、大アリです。そんなことをするのは生まれて初めてです。

「受け取りましたら、その箱に入れちゃってください」

 床に段ボール箱が直接、置かれている。箱には投票箱のような、カッターで切った長方形の穴が空いていた。私は口を開けた。

 なんというラフなお金の扱い方。一般庶民は1万円札を段ボール箱に入れたりしない。ましてや、床に置かれている段ボール箱なんかには。お金って、ふつうは財布か、のし袋か、貯金箱か募金箱に入れるものだよ。

 政治とカネ。その小さな一面を見た気がした。予定通りだと500人が集まるパーティーだというから、1日2時間で8桁のお金が集まる計算になる。

 ——すごいな、権力者。マジ? 私の原稿料、いくらよ。

 そんな感情が思わず表情に出ていたかも知れない。

 来場者のなかには、テレビでよく観る政治家の顔があった。あ、あの人、知ってる。名前も知ってる、フルネームで。あ、知ってるけど、名前は思い出せない。あ、見たことあるけど、名前も出てこないし、オーラもないな。あの人もそろそろ終わりかな。

 そんなふうにパーティーを楽しむことはできた。だが受付業務で頭を下げた回数といったら、背中の骨が疲労骨折するんじゃないかと思うほどだった。

 数百人を招待するような結婚披露宴をする人なら、一日でそれくらいの回数、人に頭を下げるのかも知れない。だが私には、そんな日は来ない。これが人生で、きっと最初で最後だろう。