ストレンジな人びと
作家 清野かほり
連載第1回
絶対エロ感
友人たちと鍋を囲んだあとにデザートが出てきた。レアチーズに自家製のプルーン煮を添えるという。
砂糖で煮込まれた、その丸ごとプルーンがシワシワだった。原則1人1個のところ、私だけ特別サービスで茶色いシワシワを2個、皿に入れられたのだ。
「これ、製造工場みたいだね」
私が言うと、友人が疑問顔を向けてくる。
「製造工場?」
「分かんないの?」
「全然」
彼女は首を横に振る。
「あれだよ、あの製造工場」
「なんの?」
ジレて言った。
「せ・い・し・の!」
「ああ!」
一度、大きく頷いたあと、顔を顰めて友人は笑った。
「なんでもかんでもエロいものに見えるんだね。いい年をして……。まったく、羨ましいよ。私なんて、そんな感覚、もう全然ないもん」
残念だ。なぜ、その能力をなくしてしまったのか。
「そんなふうに見えるのは、アンタだけだよ」
確かに私の目には、なんでもかんでもエロいものに見える。花の雄しべと雌しべがそう見えるのは当然だし、蜂蜜が滴る様はアレが滴る様に見える。キュウリやナスはソレに見える。新鮮なゴーヤを見た日には、それで誰かに大人のイタズラをしたくなる。
その旨を友人に言うと、毎回「小学生か!」という言葉が返ってくるのだ。
どうしてみんなには、そう見えないんだろう。
考えていると、彼女は続けた。
「それってさ、絶対音感みたいなものじゃない?」
爆笑した。
「雨の音が「レ」に聞こえるとかさ。あの木で小鳥が「ファ〜シシシ〜」と歌ってるでしょ、と言われても、普通の人間には分かんないもん」
彼女はときどき、すごく面白いことを言う。
「それ、すごいよ。才能だよ!」
肩を叩かれた。私は半笑いで答えるしかなかった。
「なんの役に立つかな? この才能」
冷たい無表情を向けられた。
「……まあ、役には立たないね」
そう言われると私はやっぱり「役に立たない、勃たないアレ」を思い浮かべてしまうのだった。
『絶対エロ感』。
ポジティブに考えれば、人生を少し楽しくするという意味で、そう悪くない才能かも知れない。ということに今回はしておこう。