ストレンジな人びと

               作家 清野かほり

連載第14回

 本店前のおまわりさん


 東京電力本店の門前には(本社と呼ばないところに、どんな意図があるのかは知らないが)、警備員だけでなく警察官が立ち、警備をしている。本店前の道りの路肩にはその当時、青色の装甲車が常駐していた。本店前で小規模でもデモがあると、警察官がキープラインを作る。そして人びとを監視および制御する体勢を整えるのだ。

 国家は税金で一体、何を守っているのか。誰を守っているのか。そんな思いがずっと私のなかにあった。

 記者会見の終了後、正門を出た私は、直立不動で立っている30歳前後のおまわりさんに声かけてみた。

「お疲れさまです」

 彼は私が何者か一瞬、戸惑っただろう。本店から出て来たのだから東電の社員か、出入りの業者か、記者かと瞬時に頭を巡らせたはずだ。無言のおまわりさんに私は続けた。

「こんな大事故が起こったのに、警察は動かない。どうしてなんですかね?」

 この言葉で記者の類だと思っただろう。

「私はおかしいと思いますけど。おまわりさんも、おかしいと思いません?」

 動かないままかと思っていた彼の口が動いた。

「管轄が違うので分かりません」

「え?」

 意味が分からなかった。

「ここの管轄は丸の内警察署です」

「おまわりさんは丸の内警察の人じゃないと?」

 彼は首肯した。派遣されて来たものらしい。

「でも警察は警察でしょ? 同じ警視庁の人でしょう?」

 彼は無表情で同じ言葉を繰り返した。

「管轄が違うので分かりません」

 オウムか。警察官の制服を着たオウムかい。

「警察って、本当に縦割りなんですねぇ〜」

 苦笑とともに、厭味をお土産に渡しておいた。

 それならと思い、翌日、丸の内警察署に電話して同じことを訊いてみた。驚いたことに、そのときも同じようなことを言われたのだ。

「現場じゃないと分かりかねます」

「は? もう一度、言ってもらっていいですか?」

 自分の耳を疑った。何を言ってるんだ、この人は。

「事故現場じゃないと分かりかねますね」

 福島第一原発のことを言っているらしい。

「なに言ってるんですか。すぐ近くに、現場である東電本店があるじゃないですか」

 なに寝惚けたこと言ってるんだ。大事故を起こした当事者が、あなたたちの目の前にいるっての!

〈のらりくらり〉は、東電の人びとや政治家、官僚だけじゃなかった。市民の味方であるはずの警察までもが、原子力村に取り込まれているのだった。

 ……嘆息。ますます税金を払いたくなくなった。

 最後に、日本国民および納税者として言わせてくれたまえ。とりあえず、みなさん、公僕だから。それだけは、決して忘れないでくれたまえよ。