ストレンジな人びと

               作家 清野かほり

連載第12回

 東電の人びと


 福島で原発事故があった。そこは私の地元だ。東京電力による記者会見がネット中継されるようになってから、連日、モニターに食い入るようにして観ていた。

 会見の壇上に立ち記者の質問に答えるのは、東電の重役やエンジニア、広報の人間だ。この人たちには揃った特徴がある。まず、ほぼ全員がいちいちデパートの店員さん口調であることだ。

「なんとか、かんとか〜でございます」

 デパートならもちろん違和感はないが、記者たちがざわめき、ときには怒号さえ飛び交う会見場では、慇懃で厭味な物言いに感じられる。

 だが私は、苛立つと同時に笑いもした。会見に登場する東電の面々は、みんなキャラクターが濃いのだ。

 快獣ブースカ似の原子力立地本部長代理。フランス語のような発音で日本語を喋る副社長。とても老人とは思えない頭の回転の速さで自己弁護する会長。あるお笑い芸人に顔も喋りもそっくりな広報マン。まるで教授のような上から目線で記者の質問に答える技術者。

 政府や行政を代表してやって来た大臣や官僚も、いつも苛立ちと苦笑を与えてくれた。また当時、原子力保安院の記者会見にも、独特のキャラを持つ人物がいた。カツラを被っているらしい男性がその後、愛人問題で週刊誌に騒がれ左遷になった。

 これら、さまざまな記者会見の登場人物にも共通点がある。大方の人物が、質問の主旨をはぐらかして答えるのだ。論点をすり替える。のらりくらりと弁明する。その厚顔さ、自己保身ぶりは、ある意味リスペクトに値する。のらくらの天才たち、と言ってもいい。

 のらりくらり。あの大事故から何ヶ月経っても、のらりくらり。自分たちは加害者であるという意識が希薄なのだ。

 地元の友達や家族などが巻き込まれている大事故の現状と真相は、いつまで経っても明確にされない。

 苛立ちと焦燥が頂点に達した私は、自身がフリーランスの記者となって(フリをして)東電会見に乗り込んだ。もちろん自分が真相を究明できるなどと思ってはいない。けれど、被害者側としての鬱憤を少しくらいはぶつけてもいいはずだ。できるだけ鋭利な質問を投げ、あなたたちが加害者であること、そして大勢の被害者が存在することを突き付けてやりたかった。

 私にだってあの、のらりくらりを、せめて「のらり」くらいにまではできるはずだ。

 会見場に乗り込んだ結果を端的に報告しよう。私の成果は「のらりくら」まで。あの濃い面々を溶解させることはできなかった。

 自分の非力を嘆いている。