鵜の目鷹の目ココロの目 第37回

 就職試験の前倒し 志村史夫

 

以下述べることは、特殊な日本の大学生、大学の話であり、日本の多くの大学生、大学には当てはまらないであろうことを祈りつつお断りしておく。

今年から企業の就職試験の選考面接が昨年より2ヶ月前倒しになり、6月1日になった。

エントリーシート提出、企業説明会参加などの学生の就職活動は例年通り3年次の3月1日から始まっているし、「自己分析」「業界研究」「インターンシップ」などの実質的な就職活動は3年次の6月頃から始まるようだから、大学4年間の学生時代に「本来やるべきこと(勉強、卒業研究、部活動など)」をやる時間はますます少なくなる。加えて、生活のためか、遊びのためか、金が必要な理由はさまざまであろうが、アルバイトに多くの時間とエネルギーを費やす学生も少なくない。

さらに、最近は、小学校、中学校、高校で習得していなければならない教科(特に、算数、数学、英語)の素養に欠ける「大学生」が少なくないから、大学入学直後の前期、それらの「復習」「再勉強」のためのカリキュラムも必要となる。ちょっと昔、「最近は分数の計算ができない大学生(理系も含む)がいる」という噂を聞いた時、私はさすがに「冗談」だと思っていたが、そのような「大学生」に実際に出会い愕然とさせられることがしばしばあるのが現実だった。こんなわけで、「小学13年生」と呼んだ方がよさそうな「大学1年生」もいる。

このような現実を考えると、大学4年間で、上述の(あくまでも、私個人の私見であるが)に費やせる時間はせいぜい2年半くらいになってしまうのではないか。日本の将来を背負う中心的人材になってもらわなければならない日本の大学卒業生がよいのだろうか、私は嘆息する。

大学側にも、タテマエはともかく、「就職に強い大学」という評判を得たいので、ホンネでは「就職活動最優先」の雰囲気があるから、私の嘆息など「どこ吹く」であろう。

日本の大学卒業生を採用する企業側も、もちろん、このような現状を知らないはずはない。人間一人採用するということには大変な経費がかかる上に、大きなリスクもあるわけだから、企業側にはこのような大学卒業生でも十分に使いこなせ、企業の利益につながる仕事をさせることができるという自信があるということだろう。言い方を換えれば、企業は大学における4年間の教育に大きな期待を持っていないということだろうか。

ちなみに、アメリカ社会では日本のように、一斉にたくさんの新入社員を採用するという習慣がなく「必要な人材を必要な時に採用する」というのが原則であるから、アメリカの学生は大学で「必要な人材」となるための勉強を必死ですることになる。また、当然のことながら、大学も教員も、そのための教育を一所懸命にしなければならない。私は10年余アメリカにいたが、アメリカの大学で、最近の日本の大学生のような学生を見たことがないのである。

見方を変えれば、それだけ日本の企業はすごいということなのか。