小泉すみれの最新ドラマ時評  小泉すみれ

 

第十三回 『マザー・ゲーム 〜彼女たちの階級〜』初回とか、『アイムホーム』初回とか。


フィリピン人に怒られた。オンライン英会話のトライアルレッスンでのことである。


彼女は三人の子を持つ主婦だと自己紹介し、趣味はなにかと尋ねてきた。「外国のテレビドラマシリーズを見ることです」と答えたところ、「どんな作品を見るのか」とさらに訊かれた。


思いつくままに作品名を挙げていったのであるが、彼女はこの連載でも取り上げた『ウォーキング・デッド(The Walking Dead)』にやたら興奮気味に反応した。


『ウォーキング・デッド』はフィリピンでもたいへん人気があるアメリカのドラマだという。しかし、彼女は「そんな作品をいいと思うなんて信じられない。残酷なホラー作品でしょ。いったい、あなた、何歳の子どもになら見せていいと思ってるわけ?!」などと憤りはじめたのである。


「15歳くらいからなら、自分の判断で見ていいと思う」と私見を述べると、彼女はまたそこに食いついてきた。テレビ自体を<憎むべき発明品>だとディスり、「自分はドラマなんか見ないし!」と言うのである。


そもそも<ホラー作品>じゃないんだけどなあとうんざりし、説明をつづけるのを躊躇していたところ、「ところでさあ、『デスパレートな妻たち』をあなた挙げていたけど、彼女たちのどこがデスパレートなの? 説明してちょうだい」と言うのだった。


「そうだなあ、あなたのことまったく知らないけど、あなたこそデス妻なんじゃない」……とは言わなかったが、あとで調べてみるとこの女性はなかなかの人気講師なのであった。


ネット検索をかけてみると、フィリピン人講師のオンライン英会話レッスンは、時間のない現役ママたちも多く利用している。さらに感想を拾っていくと、同じく子を持つ主婦講師たちと子どもや家族の話ができて、これがなかなかのストレス解消になっているようだ。


わたしはいささか反省したのである。子を持ついち母親の、ゾンビ作品へのディスりだとたかをくくって受け流してしまったけれど、「妻たち」について、フィリピンのいち主婦と話す絶好のチャンスを、みすみす自分は失ったのではないかと。


そして、誓った。これからは自分が<子どものいない独居未亡人>だというのを隠し、積極的に家族のことについて話し、フィリピン人主婦のみなさんとも交流していこう、と。


そんな決意のなか、始まったのである。また新しいドラマの季節が。


<現代家族>の諸相を深く描こうとしている作品がけっこうあるなあ、という印象をもった。


すみません、おそろしくざっくりとした書き方ですね。具体的に挙げてみましょう。たとえば、堺雅人主演の精神科医のドラマ『Dr.倫太郎』(日テレ)では<毒親>について積極的に描いているし、木村拓哉は『アイムホーム』(テレ朝)で高次脳機能障害により家族の顔が認識できなくなった(らしい)父親役に挑んでいる。


月9の『ようこそ、我が家へ』(フジ)はストーカー被害にあっている家族の話だし、『マザー・ゲーム 〜彼女たちの階級〜』は幼稚園ママたちを描くことでいくつもの問題ある家族の姿を浮かび上がらせている。


今週見ていて心をひかれたのは、わたしの大好きな木村文乃が初主演をつとめる記念碑的作品『マザー・ゲーム』である。いきなり、恋愛モノを飛び越して<シングルママ>役が与えられた木村文乃であるが、これが檀れい、長谷川京子、安達祐実、貫地谷しほりといった主演級の女優たちを背後に従え、なかなかの勇姿を見せてくれた。素晴らしかった。


物語は、いきなりヒロイン(木村文乃)が、役所の職員から保育園への入園を断られたシーンから始まった。つまり、物語的にいえば、<状況>から斬り込むように入ったわけであるが、ヒロイン木村文乃の存在感には親しみを超えた吸引力があり、自然にのっけからすうっとお話に入り込めた。


この吸引力がなんなのか、わたしにはまだ読み解けず、ひきつづき解析中なのであるが、バラエティ番組やCMなどで見かける彼女の態度には「わたしをどうにでも受け取ってくれていいわ」というような、いい意味での投げ出しようや開き直りがあり、もしかしたらそれは、女優として16歳で一度映画主演デビューを果たしながら、途中、5年ものブランクがあったことと関係があるのかもしれない。単に<天然ちゃん>なだけかもしれないけど。


ともあれ、物語への導入部分での木村文乃は素晴らしかった。


共演の安達祐実は『ガラスの仮面』で、貫地谷しほりは朝ドラ『ちりとてちん』や『あんどーなつ』で、「ふだんはおそろしく平凡であるがゆえに非凡である才能が際立つ女性」を演じていたが、このたびの木村文乃の役柄もそうである。料理の才能があるらしい。


そしておそろしく<まっとうちゃん>である。「はっきり言わせていただきます!」といちおう断った上で、大勢のセレブ主婦たち相手に啖呵を切る。言っていることは「わたしにならいいけど、子どもにまでいやがらせするのはやめてくださいよ」みたいな、極めてド直球で斬り込む<まっとうちゃん>なんである。


まっとうなことを言うヒロインには、途中で(5〜6話目くらいで)いっぺんものすごく見ていてうざくなるくらいがちょうどいい。『斉藤さん』(日テレ)の観月ありさも正直途中でうざかった。


木村文乃を愛しているわたしであるが、作品成功のために、途中で彼女をうざったく思える日がくることをねがってやまない。


ところで、主婦といえば、井上真央主演の大河ドラマ『花燃ゆ』は、<江戸末期の主婦>が主人公だけれど、このところやたら殿方たちの様子をものかげからうかがっていたり、突っ立ったまま途方に暮れているシーンが目立つなあと感じている。


つねづね思っている尺度なのだが、NHKの朝ドラ&大河ドラマの主人公を務める主婦の、突っ立っているシーンがやたら目立ってくると、わたしはそうとうにその作品に飽きている。


彼女たちはやたらフレンドリーだし、あの時代にあっても男性とふたりきり、密室で話すのもまったく躊躇しないし、殿方の仕事や生き方に正直に意見することが自分たちの重要な役割のひとつだとして描かれているようである。


しかし、である。わたしには、突っ立っている場面の多い女主人公の大河より、トライ&エラーのまっただなかにいる主婦たちの『マザー・ゲーム』の奮闘のほうが面白かった。『マザー・ゲーム』。二話目も楽しみである。


☆Data

『マザー・ゲーム 〜彼女たちの階級〜』TBS系 毎週火曜よる10時〜

ひょんなことから名門私立幼稚園に入れてもらった庶民派の主婦(木村文乃)が、ママカーストによるマウンティングに負けることなく、まわりのセレブ主婦たちを巻き込みながら奮闘していく。

http://www.tbs.co.jp/mothergame/


☆ひとくちメモ

木村文乃はドラマの番宣でも料理好き&器好きをアピっている。器は和のものを中心に100枚以上所有しているとか。きっとおうちが広いのね。インスタグラムでは、<ふみの飯>と呼ばれる日々の文乃の手料理が見られる。素敵な曲げわっぱのお弁当とか、こちらのセンスもあるみたい。

https://instagram.com/fuminokimura_official/